Vineyards

ぶどう畑での考え方

ワインを造る上で最も重要なことの一つは、ぶどう畑で何を考え、実践するのかではないでしょうか。ワインの原料は、100%ぶどうの果実そのものからなっています。ワインの性格、素性を現すもの、それはそのまま、原料を育てる人間の性格と素性でもあると思います。

その1 畑で働きながら考えること

その1 畑で働きながら考えること

良いワインを造るために良いぶどうを造るという当たり前の事実があるとしても、それでは何が良いぶどうかというのは、人によって大きく考え方が分かれるところです。もちろん、目指すワインのスタイルによっても良いぶどうの定義は異なるはずで、その範囲にまで考えを進めると答えは全くの闇の中になります。

私にとっては、「良いぶどう」を定義するポイントは基本的にはシンプルなものです。それは、以下の言葉に集約されます。

「ぶどう自身にとって、健康で、快適な環境で育てられたものであるかどうか。」

私の畑のぶどうがどのように感じているのかは、今の私にはまだ直接的に感じ取ることができません。しかし、私自身の都合によって、恐らく望まれない場所に植えられてしまったぶどうを私がサポートするのは当たり前のことですから、彼らの環境をできるだけ快適に整えてあげられるよう、それを意識しながら畑では仕事をしているつもりです。

その2 農薬や肥料について考えること

その2 農薬や肥料について考えること

「kondo vineyard」では、基本的には化学合成農薬、肥料、除草剤の類は使わないようにしています。 ぶどうの身になって考えれば、自分の体に由縁のわからない薬を振りかけられることは、あまり快適ではないだろうということが、簡単に想像できるからです。

ただし、順番としては、「それらの化学資材を使わないことを栽培の目的とはしてはいない」ということが言えると思います。無農薬、有機栽培を目指すことを至上目的にするのではなく、ぶどうにとって何が必要かを考え、実践した結果が、そのような方法につながれば良いと考えています。

具体的には、いわゆるJAS有機の認証を受けた「ボルドー液」や、「石灰硫黄合剤」などの殺菌剤は必要に応じて散布をしています。また、樹齢や区画、その年の気候条件によっては化学農薬を撒かざるをえないこともあります。

私自身は、滅多なことでは病院には行きませんし、ここ数年、薬もほとんど飲んだことがありません。それでも、例えば突発的なインフルエンザや他の大きな病気にかかれば、一時的にそれらの力に頼り、体力の回復を待つでしょう。基本的には、ぶどうも同じことだと思っています。

シンプルに昔のやり方に立ち返ること、そして、ぶどう本来が持つ力を長い目で見て引きだそうとすること、これが人間が造りだしたあまり快適ではない化学資材の使用を減らす、大きなポイントであると思います

その3 品種について考えること

その3 品種について考えること

「kondo vineyard」は現在2つの農場で、兄弟それぞれに独立した畑を持っています。畑と兄弟ごとの品種と面積の構成は、以下のようになります。

モセウシ農場(兄)

  • 混植 60a
  • ピノ・ノワール 40a
  • ソーヴィニョン・ブラン 30a
  • ピノ・グリ 20a
  • オーセロワ 20a
  • その他(トラミナー、ピノ・ムニエ、シャルドネなど) 30a

計 200a(2ha)

タプ・コプ農場(兄)

  • 混植 40a
  • ソーヴィニョン・ブラン 40a

計80a

タプ・コプ農場(弟)

  • ピノ・ノワール 40a
  • ソーヴィニョン・ブラン 20a
  • ピノ・グリ 20a
  • オーセロワ 20a
  • レンベルガー 10a
  • シルバーナ 10a

計120a

ある新しい畑にぶどうを植えようとする場合、その品種の決定には何らかの必然性が存在するはずです。世界には7,000から10,000とも言われるぶどう品種が存在しており、その中からその畑の気候や土壌、ワインとしての完成度を考えた上でベストな品種を決めるという行為は、ほとんど奇跡に近いと思えます。

ソーヴィニョン・ブランとピノ・ノワールに関しては、以前に働いていた歌志内の畑で実績があった品種で、ワインとしての可能性を大きく感じたという理由からでした。また、世界各地で造られるそれらの品種のワインが好きだということも、大きな要因の一つです。土壌や気候との相性に関する考察は「おそらく大丈夫だろう」という程度のもので、その意味では非常に乱暴な決め方だったのかもしれません。

私にとってのぶどう品種決定の必然性は、いわばその程度のものなのですが、むしろ重要なのはその先にあるべきなのではないかと考えています。つまり、その土地に相性の良い品種を選択できれば良いワインができると考えるのではなく、結局はそこに関わる人間の考え方、関わり方によって、その品種は生かされもし、殺されもするのだと考えています。

テロワールという概念がありますが、風土を生かし、品種を生かすその源は、常にそこで働く人間の関与なくしては成り立たないということが、むしろ私にとっては重要なことのような気がします。

その4 混植について考えること

その4 混植について考えること

品種の項で書いた考え方をもう一歩進めると、複数品種の「混植」という考え方に行き着きます。

混植とは、幾つかの品種がランダムに植えられている状態、つまり、現代の農業では極めて主流な、「合理的な単作」とは全く相反する農法になるかと思います。ちなみに、現在混植区に植えられている品種は、以下の10種類です。

  • ソーヴィニョン・ブラン
  • ケルナー
  • ゲヴュルツ・トラミナー
  • リースリング
  • シャルドネ
  • シルバーナー
  • ピノ・グリ
  • ピノ・ブラン
  • ピノ・ノワール
  • ピノ・ムニエ

広い意味で、混植という状態は、畑の中に「ぶどう以外の植物」も多種多様に生育している状態を指していると言えると思います。もちろん、その環境下で生きる昆虫や微生物などが、気兼ねなしに暮らしていける環境です。

私が雑木だらけのタプ・コプ農場をあえて拓いたのも、「耕作放棄地」という環境そのものが、ある程度そのような自然環境に近いと判断したことも理由の一つです。少なくとも、長年にわたって化学肥料や農薬をまかれ続けた一見きれいな畑よりも、私にとっては理想に近いものでした。

生物相の多様性を測る目安として、「kondo vineyard」では、2008年以降、ぶどう畑に生えてきた雑草の種類と量について観察を続けています。2008年に25種類だった雑草の種類が、現在わかっているだけで52種類にまで増えてきています。

ぶどうの混植に関しての考え方は、多少長くなりますが、以前ある雑誌の取材に答えた際に書いた文章をもとに、別のページに記載することにします。少しマニアックな話なので、興味のある方は「混植に関して」のページへどうぞ。

その5 馬耕について

その5 馬耕について

2019年からは、主にモセウシの畑の作業管理に大きな改革の一歩を踏み出しました。馬耕と書いて“ばこう”。馬でぶどう畑の土を耕す取り組みです。

馬耕を始めるきっかけは、2006年にフランス、ロワール地方のオリヴィエ・クザンさんというワイン生産者を訪ねた時にまで遡ります。畑を訪れたのは4月の初めで、ちょうどその時にしていた馬耕作業を実際に体験させてもらったことが原風景になっています。その翌年にぶどう農家として独立をし、以来12年間は目の前のできごとに精一杯でその経験は意識の底に眠ったままでしたが、時おり思い出しては「いずれは」という気持ちを人に語る程度でした。

ところが、何ごとも口に出して「やってみたいと」言い始めるときっかけが転がってくるもので、馬を使って林業をしている人が馬耕の仕事を探していると紹介を受けることになったのです。モセウシから車で一時間ほどの距離にある厚真町に住む西埜将世さんで、数年前から愛馬「カップ君」とともに重機の入らない山へ入り、切り倒した樹を馬で運ぶ「馬搬」という仕事を生業にしているということでした。

まずそういった仕事があることにも興味津々でしたが、北海道での馬搬作業は積雪期の冬に行われることが多く、夏は仕事が少なくなるのでワイン用ぶどう畑での馬耕に注目したという話を聞いて、お互い意気投合した形になりました。とはいえ、共に経験があるわけではなく、始めは全くの手探りでのチャレンジでした。

最初は、近所の農家の納屋に眠っていた50年以上前の馬耕用の農具や、西埜さんが資料館から借りてきた農具を使い、恐る恐る試してみるところから始まりました。ある程度の手ごたえは感じたものの、やはりぶどう畑に特化した農具が無ければ効率が悪いことがわかり、フランスから専用のものを3種類輸入し、秋にはモセウシの半分の面積約1ヘクタールを「プラウ」で耕してみました。

翌2020年シーズンからは、モセウシの全ての畑を他の2種類の農具とともに通年で馬耕管理しています。これまでトラクターで担ってきた作業を馬で代用することで土壌への踏圧負担は減り、ぶどうの根域への適度な空気の供給などで徐々に土が柔らかくなってきていることを実感しています。

現代の農業は、どれほど自然環境に優しいアプローチを志したとしても、畑の耕作や草刈り、防除、収穫物の運搬など、ガソリンや軽油などの化石燃料に何らかの形で頼らざるをえず、目に見えない温室効果ガスという形でいつの間にか地球の生態系を攪乱しているという矛盾を常に抱えています。全てを変えることは困難だとしても、例えばこの馬耕を通してそのことを意識するきっかけになれば良いなと考えています。

最終的にはこの地域に合った作業のタイミングや農具の細かい使い方などの精度を高めて、北海道のぶどう畑での「委託馬耕」のモデルケースを作ることができればと、西埜さんとともに経験を重ねているところです。もし興味のある方はお問い合わせください。

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